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■ 12月11日(月)
December 11, 2006 4:17 PM


 今宵は、ひとり身なので、番犬ハチ君に晩飯をあげてから、呑みに行く。
どうせ、また、いつもの、あそこ、「戎」北口店だろ。
そんな空耳が聞こえるけれど、今宵は違うのであった。
だって、月曜は「戎」北口店は定休日。
こういう場合、たいてい、その隣りの居酒屋「三善」にするのが常。
何とも、安易な、とまた空耳が聞こえるが、ここもシブくて良い店なのだ。


だが、やめた。
たまには、新たな店を開拓することにした。
西荻窪に住み始めた十七、八年前は、とにかく町内の居酒屋を社会派刑事のようにしらみつぶしに訪れ、まさしく呑み倒したものである。
そして、あらゆる条件をクリアして、最大級のマイフェイバリットな店となったのが、かの「戎」北口店なのであった。
ここ数年、新たな店がオープンしているが入ったこと無い。
いい機会なので、覗いてみよう、という気になった。
初心に戻り、BGMは「アイズ・オブ・タイガー」(←何もそこまで)。
ま、どうせ、酔っ払えば、トラなんだから、辻褄あってるし。


 気になっていた魚料理屋「漁師庵」に。
値段はまあまあかな。(「戎」が安すぎるのだ)
スズキの刺身、皮を軽くあぶっていて、いいぞ。
ユズ汁と醤油を混ぜて食べるようになっていて、かなり美味い。
これで、もっと量があれば・・・、まあ、それは高望みか。(「戎」が量の割りに安すぎるのだ)
イカの一夜干し。
香ばしい身の間からイカワタがジャムのように口の中に溶けてゆく。
こりゃ、熱燗だぜ、いい気分。


そして、最も気になっていた「カニマキ汁」を仕上げに。
これ、ワタリガニを丸ごと砕いて、すりつぶし、こしたスープ。
細かいカニの身が泡のようにフワフワと浮かんでいる。
奥行きのある味が、しっかりと舌にのっかる。
うん、いっぽん筋の通ったイイ味って、舌にのっかるんだよな。
ものによって、のっかり方が異なる。正座してたり、胡坐かいてたり、大の字に寝てたり。
これは、さしずめ、寝そべってるって感じかな。それも、武士が寝そべってる。
気軽でいて、しかし、隙が無い。
遠慮がちに試しに味付けを訊ねると、店主は軽く答えてくれた。
カニの出汁と味噌だけ、と。
塩や醤油は一切使ってない。ほお、それで、この深い味とは恐れ入った。
しかも、300円。
これ目当てに、また、来てしまいそうだ。「戎」休みの月曜に。


 まだ、満腹していない。(「戎」が量の割りに安すぎるのだ)
なので、立呑み屋「まな」に入る。
もちろん、ここも初めての店。
立呑みと看板にあるが、ちゃんと座れる。
そうか、「立呑み屋まな」という店名なのだな。
「狂い咲きサンダーロード」の山田辰夫が風呂でのぼせたふうな店長がきりもりしてる。
チューハイも生ビールも量がたっぷりあり、リーズナブル。
豆腐を頼んだら、小さな丼に、ふんわりクリーミーな、そう、「くみあげ豆腐」が出てくる。
おっ、嬉しい意外性。
あと、フライドポテト。
てっきり、棒状の冷凍のやつをチンして出してくる予想したら、これも外される。
奥の厨房で何やら調理してるらしく、五分ほどて出てきた。
ちゃんと、ジャガを切った、熱々のやつ。しっかりした歯応え。やるな。


そして、ここは、前金制。
オーダーするごとに金を払う。
なので、二千円ほどカウンターに置く。
ふと見ると、ガラスの灰皿があり、客はみんな、そこに入れてるので、俺も真似する。
そういうシステムらしい。
そこから、適当に(適切に)、店主が取ってゆく。
なかなか味わいのある店だ。満腹したし。
また、来るとしよう。月曜に。


 前金制というのは二十年ぶりくらいだったな。
俺が居酒屋の初心者時代、「養老の滝」は前金制だった。
呑み逃げする客が多かったのがその理由。
今の養老チェーンからは想像つかない店の様相だったな。
焼き鳥はガムみたいに固かったし、酒は必ずと言っていいほど翌日まで残った。


俺が急性アルコール中毒で倒れたのも、池袋の養老だった。十九歳。
高校時代の友人たちと飲んでたっけ。
後で聞いたら、救急車が来たけど断られ、また、ラブホに酔死体の俺ひとりを放り込もうとしたら、やはり拒否られたらしい。
ホント、ご迷惑をおかけしました。二十年ぶりに、また、ここに陳謝いたします。


家まで送ってくれたのが同じく赤羽在住のT君だった。
いわば、生命(いのち)の恩人。
そしたら、その五年後、T君、ちゃんと、生命保険会社に就職したよ。
そういうものなのである。
俺、断りきれず、一時、その生命保険に入らされた。
時効だろうから、もう辞めたけどね。
今じゃ、都民共済さ。



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