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■ 12月8日(金)
December 8, 2006 5:43 PM


 来年出すと宣言した長編「夕陽はかえる」の準備や、アンソロジー用の短編の設計図やら、文庫の解説の資料集め、新刊ベスト・アンケート、近況報告の原稿などに加え、住所録作りを遅々として進め、煩雑な忙しさである。
節々が痛んだり、頭や腹がどんよりしダルかったり、何だか微熱めいた疲れが続く。


 パリで、ヒトラーが「ドイツの技術」を誇示するために発注したというレーシングカーが競売にかけられるらしい。
日本円にして13億の値が予想されている。
いくら、あいつでも買わんだろうな。
そう、あいつ・・・。
あいつ、ってマルジのこと。
マルジ? フランス人? ヴィトンみたいなブランドの創設者?
いや、マルジは日本人。
昭和40年代に北区赤羽に棲息していた男だよ。
んなもん、誰も知らんわい!
で、いきなり、アカバネん・グラフィティ。


マルジはニックネーム、中学時代の俺の同級生である。
佐野史郎から半分くらい血を抜いて、衰弱させたような風貌。
赤ちゃんみたいな薄い茶色の髪がポワポワ生えているのが特徴だった。
こいつ、二週間おきに、必ず北区赤羽図書館に赴く。
そして、水木しげるの漫画「ヒトラー」を返却するのである。
返却して、すぐ、また、借りる。
これを延々と繰り返している。なので、赤羽図書館では、「ヒトラー」は常に貸し出し中。
ほとんどマルジの所有物と化している。
いつも、学校に「ヒトラー」を持参して、教室の隅で黙々と読んでいたな。
いったい、何べん読んだのだろう?
いったい、何を企んでいたのだろう?
やはり、世界制服を真面目に考えていたのか?
後年、何人かの者が、そのことをマルジ本人に問うたらしいが、不気味に微笑むだけだったという。
が、今もまだ、マルジが世界を動かしている様子は無い。


マルジは会社勤めをするようになった。
なぜか、彼の家で、アダルト・ビデオの鑑賞会が開かれた。
なかなかのコレクションだったらしい。
赤羽の友人や会社の同僚が十人くらい参加した。
みんなマルジと同じく二十代半ば。
しかし、一人だけ、五十過ぎのオッサンが混じっていた。妙に浮いていて、みんな、気になって仕方ない。
が、どういう交友関係なのか、最後まで解らなかった。


後に聞いたマルジの消息。
なんでも、乗馬にハマっているらしい。
しかも、かなりの腕前だという。華麗な手綱さばきで、障害のジャンプなど高度なテクニックも操れるらしい。
どんどん、この男の正体が解らなくなってくる。
教室の隅で「ヒトラー」を読みふけっていたマルジ、あれはいったい何だったのだろう?


 新聞の見出し「大阪で[おしっこばあさん]逮捕」。
実も蓋もないタイトルやなぁ。
八十の婆さんが、コップに入れた尿を、隣家の台所の窓ガラスに投げかけていたという。先月から、計五回くらい。
コップに入れる、というあたりが女性ならでは。
男なら直接、放水だものな。


また、もう一つ、思い出した、アカバネん・グラフィティ。
かつて、赤羽の踏切は、俗に言う「開かずの踏切」として有名であった。
30分くらい遮断機が下りたまんまなんて、ざらだった。
一時間くらいというのも決して誇張ではない。
ある雨の日、やはり、踏切がなかなか開かなかった。
八十くらいの婆さんが突然、その場にしゃがむと、着物の裾をちょいとまくり、小便をたれ始めた。
雨に混じって川になっていくよ。
でも、みんな、動じない。
赤羽の開かずの踏切ではよくある光景なのだから。


 モスクワの麻薬中毒者治療病院で火災。
42人が死亡、10人が負傷。
放火の可能性が高いらしい。
いや、絶対に放火に違いない。
なんせ、ポロニウムのロシアだ。
治療が面倒くさくなったのだろう。
あるいは、それこそ、例のスパイ事件がらみで、重要証人の抹殺とそのカムフラージュだろう。
なんせ、十年前、オウム事件で、ロシアとのつながりが指摘された際に、その手掛かりの書類があるとされた大学の研究室で「ちゃんと」火事があったくらいだからな。
忘れたとは言わせねえぜ、おいっ。


 晩飯。タンメン鍋。今回は仕上げにちゃんと乾麺を入れて、タンメンにして食った。出汁は、豚バラと干シイタケとコンブ、最低、40分は煮る。



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